「値決め」こそ売る行為の本質。まず今の価格を知る

  • 2019年11月21日
「値決め」こそ売る行為の本質。まず今の価格を知る

「売る」という行為は、非常に高度で面白い。これは「売れた」という経験を持つ人なら、誰でも共感してもらえるだろう。

自分で作ったものや、書いたもの、手伝ったことに大して報酬が支払われるあの瞬間は、ゲームやその他の娯楽など、お金を「使って」手に入る快感とは、また別次元に存在する。
それは社会において自分の居場所がほしい、人に認めてもらいたいという最も根源的な欲求を満たすものである。

そして、その中でも特に面白いことの1つはプライシング、すなわち「値決め」だ。

「値決め」と言っても、フツーのサラリーマンにはあまり縁がないかもしれない。商品の価格は会社が決めるものであり、一社員が自由に設定して良いという事は殆どないからだ。

だが、起業家、フリーランスたちは必ず「値決め」を重要視する。「自分の商品に価格をつける」「自分自身のスキルに単価を設定する」ことは、事業戦略やマーケティング施策のキーストーンとなる。
従って、それは会社や事業の命運を左右するほどのインパクトがあるのだ。
だから、会社においては通常、値決めは経営トップの重要な仕事の1つである。

京セラおよびKDDIの創業者であり、JALを経営再建した稲盛和夫氏はその著書
「アメーバ経営(日本経済新聞出版社)」のなかで「値決めは経営」と言った。

「これより安ければ、いくらでも注文が取れる。これより高ければ注文が逃げてしまう。
そのぎりぎりの一点を射止めなければならない(中略)
値決めとは、経営の死命を制する問題であり、リーダーが全神経を集中しておこなわなければならないものである。」

稲盛氏の発言こそ、経営の本質である。
「自分で売る」という試みをする人はこれを、自ら経験できるのだ。やらない手はない。

だが、ここで一つ問題がある。
個人が「売る」行為をする時、重要な「値決め」をどのように行うべきなのか、その指針はあまり示されてない。
フリーランスなどをやっている個人事業主でさえ、はっきりと値決めの指針を語れる人は少ない。ひどい時には「自分のスキルをいくらで売ればよいのか、分からない」というケースさえある。

では、価格はどのように決めればよいのだろうか。
「原価に利益率を乗じた価格で」
「顧客の便益に応じて」
などいろいろな話があるが、現実的にもっとも妥当なのは、顧客の認識する「お得感」によって価格を決めることである。

顧客は必ずしも「合理的な価格」を選ぶわけではない。よく引き合いに出される例として、
「野菜を最寄りのスーパーで買わず、クルマで15分かけて数十円安い店に行く」という行動がある。

メリット、デメリットのみで考えればこれは明らかに非合理な活動であるが、「お得な買い物をした」という目の前の満足感のために行動する顧客も少なくない。
つまり「顧客のお得感」は、競合他社との比較や、販売する場所、タイミングによって演出されるものだ。

したがって、踏むべき手順は以下である。

  1. 最低いくらで売るべきか?を算定する。

原価、販促費などを積み上げ、「少なくともどの程度の価格で販売しなければならないか」の検証を行なう。
ただしこれはあくまでも最低価格にすぎない。これはあくまでも「最低でもいくらで販売しなければ赤字となるか」の算出である。

  1. いくらなら顧客が買うか?の検証

次が値決めのもっとも重要な部分である。
「顧客として想定される人々」への調査を行う。これは、商品に対してどの程度の付加価値を感じているかを検証するためである。
要は複数の「相場」を調査することが、これに当たる。

販売するシーンや場所、比較対象によって顧客の「いくらなら買うか」は大きく変わる。

例えばショッピングセンターの中の量販店で買う場合と、ホテルの売店で買う場合とでは同じ商品であっても「いくらなら買う」が異なるはずである。
また、夏には高価格でも売れるが、冬には低価格でなければ売れないなどの季節変動も存在する。
顧客がいますぐに必要だと判断する場合は高めの価格設定でも売れるし、顧客の緊急度が低い場合には価格設定を落とさないと買わないかもしれない。

したがって、可能であればシーン、場所、考えうる競合製品を列挙し、それらを変えながら「最も高く販売できるタイミング、場所、売り先」を探る事が値決めの技術である。

以上のように「値決め」は様々な状況を勘案する高度なマーケティングスキルである。
ただ、以前に比べて現在はwebで相場を調査することは比較的簡単になってきており、各種のECやキュレーションサイトで価格を追いかけることが可能だ。

可能であれば「副業」などを通じて様々なものを販売し、様々なものの値決めの勘を養ってみてほしい。それはマーケティングをはじめとするビジネススキルの向上に大きく寄与するだろう。

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(Kevin Spencer)

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