- 金の採掘方法を知りたい
- 金鉱石から金を取り出す方法を知りたい
- 金の採掘量や埋蔵量を知りたい
大切に使っている金のリングやネックレス、親から受け継いだ仏具など、身の回りにある金製品がどのように誕生したのだろうと考えたことはありませんか。
金の過去をたどれば、すべては金鉱山に行き着きます。ただし、金鉱山で金鉱石を採掘できても、純金を手にするまでにはたくさんの工程が必要です。
本記事では、金の採掘方法や製錬の仕方などについて詳しく解説しています。ぜひ、採掘された金が製品に加工されるまでの過程をチェックしてみてください。
金採掘には金鉱脈を発見する必要がある
現代日本で金を採掘しているイメージはあまりないかもしれませんが、実は日本にも稼働中の金鉱山があります。
金を採掘するには、金が眠る金鉱脈の発見が必要です。日本や世界にある金鉱脈をチェックしましょう。
日本の金鉱脈
マルコ・ポーロの東方見聞録のなかで、「黄金の国ジパング」と紹介された日本。
かつては日本の複数箇所に金山があり、金が産出されていました。山梨県の「黒川金山」「湯之奥金山」や、新潟県の「佐渡金山」などが有名です。
2024年現在、国内で商業的な規模で稼働している金山は、鹿児島県の「菱刈鉱山」1カ所のみ。「菱刈鉱山」の金埋蔵量はまだまだ多く、今後も40年近くは採掘できると考えられています。
世界の金鉱脈
金の産出国といえば、以前は南アフリカ共和国のイメージがありました。実際に、1970年代初めにはトップの座に君臨していましたが、他国での金産出量が増え、2022年時点では世界第8位です。
また、2022年時点での金の産出量トップ3は以下のとおり。
- 中国
- オーストラリア
- ロシア
中国の山東省付近には、西嶺金鉱や三山島金鉱など、かなりの埋蔵量を誇る金鉱脈があります。2023年には新たな金の埋蔵が発見されており、今後も産出量トップがつづくかもしれません。
金を採掘できる特徴的な場所
金は、どのような場所で採掘できるのでしょうか。
金採掘ができる土地には特徴があります。実際に金を発見するまでには長い道のりがありますが、気になった場所があれば試しに探してみてください。
火山が近くにある温泉地
地下は地上よりも気圧が高く、100度以上でも蒸発しない「熱水」が存在しています。熱水は、岩石中の成分を溶かすため、金のようなさまざまな元素を含んでいることが特徴です。
熱水が地表に近づくにつれて温度が下がると元素が沈殿し、「熱水鉱脈鉱床」が形成されます。熱水鉱脈鉱床の採掘調査をすると、大量の金が見つかるかもしれません。
地表付近にのぼってきた熱水の一部は温泉になるため、温泉地の近くには、金が眠っている可能性があります。
砂金が見つかる川
砂金が見つかった川の上流には、金鉱脈があるかもしれません。金鉱脈が大雨などの自然現象によって崩れ、川下に流れ着いたものが砂金です。「川金」「柴金」とも呼ばれ、川の土砂から金を取り出す技術もありました。
2024年現在でも砂金は採れ、砂金採りを楽しめる観光施設もあります。採取できる砂金はごくわずかですが、貴重な体験になるのではないでしょうか。
海底
2015年に、伊豆諸島の青ヶ島周辺海域の水深700m地点で、「金鉱脈」が発見されています。海底から熱水が噴き出す「熱水噴出孔」があり、周囲の岩石を調査したところ金が高濃度で含まれていました。
一般的な金鉱山は鉱石1トンあたり3〜5gの金含有量ですが、青ヶ島周辺で2015年に発見された岩石に含まれる金は、1トンあたり17gです。
伊豆諸島周辺において、熱水噴出孔自体はそれほど珍しいものではありません。しかし、なぜこの熱水噴出孔にだけこれほどまで高濃度の金が集まったのか、海底でどのように金を回収するのかなどについては、今後も研究がつづくようです。
金の採掘方法
金を採掘するには、いくつかの方法があります。代表的な5つの採掘方法を確認しましょう。
それぞれにメリット・デメリットがあり、2024年現在ではあまり行われない方法もあります。そんななか、「含水爆薬」は多くの地域で行われている方法です。
含水爆薬
「含水爆薬」という採掘方法では、金鉱脈に穴を開け、爆薬を装填します。爆破によって砕かれた鉱石を回収し、さらに細かくして選別。その後は工場に運ばれて製錬され、純金が取り出されます。
安全性が高く、鹿児島県の菱刈鉱山でも採用されている方法です。世界でも、含水爆薬で金を採掘している鉱山は多いため、メリットがあると考えられます。
露頭掘り
「露頭掘り」は、山に坑道を築かず、地表に近い部分の金鉱脈を直接掘って金を採掘する方法です。鉱山での初期の採掘方法であり、戦国時代から江戸時代にかけて行われていました。「露天掘り」とも呼ばれます。
メリットは長い坑道を掘る必要がない点ですが、デメリットは、露頭掘りを行った周囲の環境への悪影響がかなり大きい点です。露頭掘りは、ペルーで採用されています。
選鉱鍋・選鉱台
川金を採取する際に使われる方法です。砂金が集まりやすい場所で、選鉱鍋や選鉱台といった道具を用いて作業します。
比重が大きいという金の特徴を利用して金を集めており、選鉱鍋を使った採掘方法は、古代エジプトでも行われていました。時代が流れ、選鉱鍋は小さく効率が悪いため、より大きな選鉱台が生まれます。
水圧掘削法
「水圧掘削法」では、金鉱脈の側面部分にホースなどを使って高水圧の水をかけ、鉱脈を崩します。崩れた土砂が流れ込んだ水路から金を採取しました。
重さのある金は、水路の下のほうに沈殿するため、金を回収しやすいというメリットがあります。
カリフォルニアでゴールドラッシュが起きた際に盛んに活用されていた採掘方法です。
硬岩探鉱法
「硬岩探鉱法」は、石英など、金を含む岩を爆破して流水を使って金を回収する方法です。
金を取り出すためには大量の水が必要で、水がない場合には水銀やヒ素を使うこともありました。水銀やヒ素を使う採掘方法は、環境への悪影響が大きく、作業者の身体にも健康被害をもたらす危険があります。
硬岩探鉱法は、ゴールドラッシュが終わったあとのカリフォルニアで行われていました。
採掘した鉱石から金を取り出す方法
金鉱脈から鉱石を採掘したあとも、金を取り出すまでにはさまざまな工程があります。
鉱石から金を取り出すための方法をいくつかチェックしましょう。これらの工程を経て金は製錬され、純金や金製品として市場で売買されます。
銅の溶鉱炉を使う
溶鉱炉に金鉱石や銅鉱石などを入れて溶解し、電気分解をして金を取り出します。「電解精錬」と呼ばれ、金・銀・銅などのさまざまな金属の精錬に使われる方法です。
金の主流な精錬方法のひとつで、水銀を使う方法と比べ、人や環境への悪影響が抑えられます。大規模設備の導入が必要である点がデメリットです。
水銀を使う
金鉱石を水銀に溶かしてアマルガム合金を作り、加熱して水銀を蒸発させることで、最終的に金だけを取り出す方法です。「アマルガム法」と呼ばれます。
比較的小さな工場でも費用をかけずに行えますが、水銀を使うため、環境や人体への悪影響が大きいです。
南アフリカ共和国などのほか、アマゾン川流域の違法採掘現場でも行われており、水銀による健康被害が疑われています。
青化ソーダを使う
細かく砕き、水に入れて泥状にした金鉱石を、青化ソーダ(シアン化ナトリウム)に溶かします。その後、青化ソーダの溶液に亜鉛を加えて金を取り出す方法です。
イギリスで生まれた製錬法で、「青化法」と呼ばれます。
青化ソーダは毒性が強い物質のため、細心の注意を払って使用しなくてはなりません。地域によっては、青化法を用いた製錬を禁止しています。
鉛を使う
「灰吹法」と呼ばれる方法です。砕いて鉛と一緒に溶かした金鉱石を、灰がしかれた容器に入れ、「ふいご」で適度に風を送って加熱します。鉛が酸化して灰の中に染み込んでいき、金を取り出せる仕組みです。
紀元前2000年ごろからあったとされますが、日本に伝えられたのは戦国時代。石見銀山で行われていました。
金採掘に関する疑問
金の採掘は身近で行われることではないため、疑問に思うことがたくさんあるのではないでしょうか。
金の採掘に関してよく聞かれる疑問・質問と、それに対する回答を紹介します。金に興味を持つきっかけにしてください。
金は個人で採掘できる?
商業的なレベルの金採掘を、個人で行うことはむずかしいでしょう。
採掘のためには金鉱脈を探し出す必要があり、金鉱脈が見つかっても、金鉱石を採掘して製錬するまでにはかなりの費用や時間がかかります。大がかりな機械を使わず、個人の力で金を採掘することには無理があるでしょう。
観光施設では気軽に砂金採取体験ができるため、ぜひ訪れてみてください。
金を採掘しすぎたらなくなってしまう?
アクセサリーや金貨など、金を使用した製品はたくさんあり、形が変わっても金は金です。石油は使い過ぎると枯渇してしまいますが、金は金を含有する製品を集めて精錬すれば、再び純度の高い金に戻せます。
そのため、地中の金を採掘しすぎてしまったとしても、地球上から金が失われることはないでしょう。
金採掘に関するデータ
金の採掘に関するさまざまなデータを集めました。
普段の生活のなかで金製品に触れることはあっても、その金がどこからきたのかを意識する機会は少ないでしょう。ぜひ、少し意識を向けてみてください。
採掘した1トンの鉱石に含まれる金の量
金鉱石と聞くと、金が主な成分の岩石をイメージするかもしれませんが、金鉱石に含まれる金の量はほんのわずかです。
世界中にある主要な金鉱山にて、採掘した1トンの鉱石に含まれる金の量は3〜5gほど。莫大な労力と費用をかけて1トンの金鉱石を掘り出しても、得られる金はリングひとつくらいでしかありません。
採掘量
金は、紀元前の昔から人類と深い関わりがありました。2022年までに採掘された金の総量は、約20万トンです。過去10年ほどは、全世界で1年間に約3,400トンのペースで採掘が進んでいます。
技術が進歩し、昔よりも金採掘が効率化していると考えられるでしょう。
埋蔵量
金はこれまでに20万トンほど採掘されていますが、2022年時点での埋蔵量は、約5万2,000トンと考えられています。
2022年時点で埋蔵量の多い国は、次のとおりです。
- オーストラリア:8,400トン
- ロシア:6,800トン
- 南アフリカ共和国:5,000トン
これまでの採掘量に対する残りの埋蔵量を知ると、不安を覚えるかもしれません。ただし、技術の進歩により、海底のような、これまでは採掘がむずかしかった地域の金が採れる可能性もあります。
年間産出量
2024年現在、日本で唯一商業規模で金採掘が行われている「菱刈鉱山」では、年間に約6トンの金を産出しています。日本の鉱山の歴史から見ると多いですが、世界に目を移すと産出量の違いに驚くでしょう。
2022年における世界の金産出量トップ3は、以下のとおりです。
- 中国:330トン
- オーストラリア:320トン
- ロシア:320トン
菱刈鉱山では、周辺環境や地下資源の未来を考慮し、2023年より年間産出量を4.4トンに下げました。地球を大切にしながら金を採掘しています。
採掘の困難さを踏まえて金を大切にしよう
金鉱脈を発見して金を採掘・製錬する方法から、金の採掘に関するさまざまなデータまで紹介しました。金製品をこれまで以上に身近に感じたのではないでしょうか。
金製品の価格は高いですが、採掘された金鉱石がアクセサリーや金杯、仏具などに加工され、店頭に並ぶまでの流れを考えると妥当なのかもしれません。
金が枯渇してしまうことはないとはいえ、使わなくなった金製品は買取やリサイクルに出すなど、一つひとつを大切にしてみてください。