ヒロヤマガタ(本名:山形 博導 やまがた ひろみち)は、世界的に名の知れた日本のアーティストです。その表現手法は、有名なシルクスクリーン(版画)作品から、レーザー(光)を使った作品、ブロンズ像の立体作品まで多岐に及びます。
こちらではヒロヤマガタの代表的な作品について、またヒロヤマガタ作品の鑑賞方法や購入方法、そして買取相場について紹介しています。
この記事を読めば、ヒロヤマガタについて少し詳しくなれるかもしれません。
世界で活躍する現代美術家
ヒロヤマガタの作品は、大きく分けて以下3つの時代に分類されます。
20代前半まで過ごした生まれ故郷の日本から、ヨーロッパ、現在も在住しているアメリカと、現代美術家として世界を股にかけて活躍するその足跡をたどってみましょう。
- 日本居住時代
- ヨーロッパ居住時代
- アメリカ移住居住時代
日本居住時代
1948年に滋賀県の米原に生まれたヒロヤマガタは、小学校の頃から放課後に美術の特別授業を受けていたと伝えられています。
県立米原高校入学後は、同高校の美術教師であり、日本画家でもあった椙村睦親(すぎむらまさちか)氏に師事しました。
この頃から公募展へ積極的に応募して受賞歴を重ねていきます。また、近年のプロジェクトでも見られる蛍光灯を用いたネオン作品の制作もこの頃すでに始めています。
ヒロヤマガタは、絵画制作においてフランス素朴派の画家アンリ・ルソーの画集からも大きな影響を受けたとされています。高校卒業とともに椙村氏の元で日本画を学びますが、その後上京。アルバイト先の画材屋経由で広告会社のイラスト仕事を始め、その腕を認められるようになりました。
ヨーロッパ居住時代
20代半ばになった1972年に、ヒロヤマガタは当時の恋人のあとを追ってイタリア・ミラノに渡ります。その後フランス・パリに拠点を移し、本格的な作品制作を始めるようになりました。
渡仏翌年にはパリの画廊と契約を結ぶなど頭角を現したヒロヤマガタは、同年の1973年にオーストリア・ウィーンで初の個展を開催しています。
初個展以降はフランスで数多くのサロンに出品するほか、油彩や水彩画によるヨーロッパでの個展開催で精力的に活動。現地の音楽家や詩人たちとも交流を深めます。1974年にはパリでレーザー光を使ったインスタレーション作品を発表するなど、活動分野は多岐にわたります。
アメリカ移住居住時代
1978年にアメリカ・ロサンゼルスの画廊との契約を結んだヒロヤマガタは、これを機にアメリカへと移住します。アメリカでは100色以上におよぶ色鮮やかなシルクスクリーンを多数制作し、瞬く間にその名を知られるようになりました。
1982年に制作した「エアショー」が当時レーガン米大統領が会長を務める財団の祝典記念ポスターに選出された前後から、アメリカ各地で数多くの展覧会に参加。1986年には自由の女神100周年記念公式ポスターの制作依頼を受けます。
このほかにもオリンピック公式ポスターの原画制作を多く手がけ、世界的な名声を得るようになりました。
作品の特徴
ヒロヤマガタの作品には、ひと目ですぐに氏の作品とわかるような特徴があります。ここでは以下2つのカテゴリーに分類し、その特徴について見ていきます。
- 写実的な風景と簡素化した人のギャップ
- ホログラムやレーザーを使った作品も制作
写実的な風景と簡素化した人のギャップ
ヒロヤマガタの作品と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、鮮やかな色彩が印象的なシルクスクリーン作品でしょう。
シルクスクリーンは版画の一種ですが、ヒロヤマガタの作品は100色以上もの多色刷りという並外れた工程を通して制作されています。多くの色を使いながらも、その世界観を上手くまとめあげ、ひとつの作品として成立させている点が特徴です。
また、ヒロヤマガタの作品には「ヤマガタ・ブルー」と呼ばれる青色が印象的に使われており、その青色は時には空の色、時には海の色として画面に登場します。いずれも鮮やかな発色ながらもよく調和されているため、見るものを飽きさせません。
そしてヒロヤマガタ作品最大の特徴といえるのが、写実的な風景のなかに描かれる、簡素化した人々とのギャップです。簡素化されながらも、描かれた人々にはそれぞれ物語があり、想像力をかき立てられるように構成されています。
ホログラムやレーザーを使った作品も制作
オリジナリティのあるシルクスクリーン作品で一躍有名になったヒロヤマガタですが、近年はホログラムやレーザーを使った作品、また立体のブロンズ像も手がけています。
特に立体作品となる人物をモチーフにしたブロンズ像の制作に関しては、その希少性も相まって市場で高い評価を得ています。保存状態の良し悪しにもよりますが、中古買取市場では数十万円の買取価格で査定されるケースもあるようです。
1990年代末からは、ホログラムやレーザーを使用した大掛かりなインスタレーション作品も次々に発表し、現代美術家として揺るぎない地位を獲得しています。
主な代表作
ここで現代美術家ヒロヤマガタの主な代表作を見ていきましょう。以下に取り上げるのは、いずれも氏を世界的に有名にしたシルクスクリーンの作品群です。
- 自由の女神
- ペリエ
- レイニーデイ
- 日本のエッセンスシリーズ
- ディズニーとのコラボ
- オリンピックの公式ポスター
自由の女神
現在もアメリカに在住しているヒロヤマガタの作品には、ニューヨークをモチーフにしたものが複数点存在します。
そのニューヨークが題材の作品でなんといっても有名なのは、1986年に制作された『自由の女神』でしょう。同作品は自由の女神100周年記念事業に関連し、当時のレーガン米大統領から直々に依頼されたものです。
リボンが巻き付けられた自由の女神像のバックには、懐かしのツインタワーほかニューヨークの摩天楼が描かれています。空には無数の花火と気球が打ちあがり、お祭りムード満載の華やかな1点に仕上がっています。
ペリエ
1982年に制作された『ペリエ I』は、ヒロヤマガタの代表作の一つといわれています。
フランスの炭酸飲料水メーカー「ペリエ」のロゴが入った飛行船が、快晴のパリの空を飛ぶ様子を描いています。飛行船の周りには炭酸水のような気泡が散りばめられ、とても爽やかな印象を与えてくれます。
パリのアパルトマンやカフェの前にはクラシックカーや馬車が走り、遠くには凱旋門も見えます。この作品で描いた青空がきっかけで、ヤマガタ・ブルーの評価が高まったとされるのも納得できる1枚でしょう。1994年には『ペリエ II』も発表しています。
レイニーデイ
『レイニーデイ』は1986年に制作された版画で、ヒロヤマガタの他の作品とは一線を画すモノトーンな色調でまとめられています。
その名の通り、霧に包まれた雨降るパリの街並みを描いたもので、遠くにはエッフェル塔も見えます。叙情的で落ち着いた印象を与える作風ながら、雨の中を急ぐ人々の姿をユーモアあふれる表現で描き、見る者の想像力をかき立てる作品です。
こちらもヒロヤマガタの初期を代表する作品の一つに数えられ、かつポップな色調が多い他の作品とは違った希少性もあって注目を集めています。
日本のエッセンスシリーズ
海外生活の長いヒロヤマガタですが、日本の風景や和の心をテーマにしたシルクスクリーン『日本のエッセンス』シリーズも手がけています。
日本のエッセンスとして描かれる風景の中には、万葉路や嵐山、三千院に桜島、三笠山や兼六園などがあります。高校時代に日本画家である恩師のもとで学んだという、日本画の知識が見て取れるような構成になっているのが印象的です。
シリーズのなかでも特に『水前寺公園』や『宮島』をモチーフにしたものは人気が高く、保証書があれば約10,000円の価格で買い取られる可能性もあります。
ディズニーとのコラボ
ヒロヤマガタのシルクスクリーンには、ディズニーのキャラクターやディズニーランドとのコラボレーションも数多く存在します。
世界中で愛されているキャラクターや夢の国が描かれているコラボ作品は、ヒロヤマガタのファンにはもちろん、ディズニーファンにも人気があるのは疑うまでもありません。
コラボ作品には、昼間のシンデレラ城の前でミッキーやミニーたちがパレードをしているもの、また打ち上げ花火の上がる夜のシンデレラ城など、度々同じモチーフが登場します。ディズニー好きなら、チェックしておきたいシリーズといえるでしょう。
オリンピックの公式ポスター
世界を股にかけて活躍するヒロヤマガタは、オリンピックの公式ポスターにも数多く携わってきました。
1988年のカルガリー冬季オリンピックとソウル夏季オリンピックを皮切りに、バルセロナ、アトランタ、長野冬季オリンピックなどの公式ポスターを手掛けています。
多くのオリンピックのポスターでは、スキーや体操、水泳などアスリートの姿がメインに描かれたダイナミックな画風で新境地を見せています。
対して長野オリンピックのポスターには開閉会式の華やかなセレモニーの様子が描かれ、画面中央に描かれた雪山とのコントラストがとても美しい1枚です。
ヒロヤマガタの作品を手軽に鑑賞するには
実際のところ、ヒロヤマガタの作品はどこへ行けば見ることができるのでしょうか。またネット以外でも手軽に鑑賞できる方法などはあるのでしょうか?ここでは以下2つの方法を提案しますので、ご参照ください。
美術館や展覧会
ヒロヤマガタ作品の本物を実際に鑑賞したい場合、美術館で開催されている企画展などの展覧会へ足を運ぶのが確実です。また大阪の『プロパックハウス御堂筋ミュージアム』には常設展示があるので、必見です。
プロパックハウス御堂筋ミュージアムは、ヒロヤマガタの絵画専門美術館として2016年3月に開館しました。こちらでは、シルクスクリーンの原画となっているヒロヤマガタの直筆絵画が展示されています。
1階はカフェ、2階にはミュージアムショップが入り、作品が鑑賞できるフロアは3階と4階の展示室になります。5階にはイベントスペースもあり、大阪市営地下鉄御堂筋線の本町駅または心斎橋駅から徒歩5分とアクセスも簡単です。
画集
大阪の専門美術館は遠方で出かけるのが大変、という場合でも、画集なら家にいながらヒロヤマガタ作品を鑑賞することが可能です。
ヒロヤマガタの画集は数多く出版されていますが、なかには『ディズニー・マジック』と題された、ディズニー作品に特化した画集もあります。
こちらは1992年より6年間に及ぶディズニーとのコラボ作品22点を収めた作品集で、それぞれの作品を細部に至るまで鑑賞することができます。
また『ヒロヤマガタ全版画集 1976年-1993年』は、1976年から1993年にかけて制作されたシルクスクリーンやリトグラフなど、氏の全版画188点を収録。ファンにとって見逃せない画集となっています。
作品の購入方法
ここまで読んで、ヒロヤマガタの作品を入手してみたいと思った方もいらっしゃるかもしれません。こちらでは、ヒロヤマガタ作品を購入する方法についてお話します。
骨董品や絵画の販売店
ヒロヤマガタの作品には、手軽に購入できる版画やポスターから高価なブロンズ像まで、さまざまなタイプのものがあります。
特にヒロヤマガタの高額な作品を購入したい場合は、骨董品や絵画を扱っている画廊など、作品の価値を把握できている専門販売店を選ぶようにしてください。
世界的に有名なヒロヤマガタの作品には、違法に複製された偽物が出回っていることもあります。作品の真価を見極められる専門店なら、本物であることを証明できる保証書が付いている可能性もあるので安心です。
インターネットオークション
多数の版画や絵画を残してきたヒロヤマガタの作品は、インターネットのオークションなどでも出品されていることがあります。
インターネットオークションは気軽に取引が可能なメリットがある一方で、コンディションが悪いものや、贋作(偽物)が混じっている場合があるので注意が必要です。
実際の作品を見ることなく、画像だけで本物か贋作かを見極めるのは、なかなか難しいことかもしれません。ネットで手軽に購入できる分、リスクを背負わなければならない可能性も念頭に置いてください。
現在のヒロヤマガタ作品の価値
主に1980年代から2000年代初頭にかけて多くの作品を発表したヒロヤマガタですが、現在の作品価値はどのように評価されているのでしょうか。こちらでは、版画作品・立体作品のそれぞれの買取相場などを見ていきます。
シルクスクリーン作品
ヒロヤマガタの作品の中でもっともよく見られるシルクスクリーンですが、ご存じの通りシルクスクリーンは版画で複製可能なため、買取価格はさほど高くなりません。
しかし、世に知られるきっかけとなった有名な作品も多く、ヒロヤマガタが手がけたシルクスクリーンの買取相場は比較的安定しています。作品にもよりますが、10,000円〜数万円程度が大まかな買取金額の目安と考えてください。
買取人気が特に高いのはディズニーとのコラボシリーズで、約40,000円~80,000円の高価買取となる可能性があります。ペリエ IとII、レイニーデイなどの代表作も高額査定に期待が持てるでしょう。
ブロンズ像
シルクスクリーンのように複製された数が多い作品に対し、ブロンズ像などヒロヤマガタの立体作品は、複製している数も限定されて希少価値があるため、高値になります。
ヒロヤマガタが制作したブロンズ像の多くは、氏の絵画から飛び出してきたような、ユーモラスな人々がモデルになっています。『ウィーリーディーラー』や『買い物』、『アウト・オブ・ランチ』など、欧米の街角で見かけるようなストーリー性ある人物像は、見るものを飽きさせません。
発色も豊かなヒロヤマガタのブロンズ像は人気があり、状態が良ければ数十万円の買取価格がつくこともあります。
作品の価値は比較的安定している
ヨーロッパでスタートさせた美術作家としてのキャリアが、50年近くに及ぶヒロヤマガタ。その作家としての輝かしい軌跡や、代表的な作品・特徴についてまとめました。
ヒロヤマガタの代名詞ともいえる多色刷りのシルクスクリーンは、依然人気が高く、作品価値は比較的安定しています。また近年は氏の絵画から飛び出してきたような人物のブロンズ像にも人気が集まっています。
ヒロヤマガタについてより興味を持ったという方は、ぜひ美術館で本物を鑑賞するか、画集を手に取り、そのユーモラス溢れる氏の世界観をお楽しみください。