備前長船の刀はなぜ人気なのか?織田信長も魅了された秘密を調査

  • 2020年10月19日
備前長船

「備前長船(びぜんおさふね)」は、現在の岡山県に位置する備前国(びぜんのくに)を拠点に作刀をおこなっていた日本刀の名ブランドです。

ゲーム好きな方には「とうらぶ」で親しまれる「刀剣乱舞」に出てくる刀剣男子のキャラクター関連でなじみのある名前かもしれません。

この記事では、備前長船にはどのような刀があるのか、その歴史や名工、愛用していた歴史上の人物などについてまとめています。

また備前長船の購入方法、備前長船が鑑賞できる博物館や美術館も紹介し、名刀・備前長船の魅力に迫ります。

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備前長船とは

現在の岡山県にあたる備前を拠点に活動していた備前長船の起源は、平安時代中期にまでさかのぼります。この頃にはじまった「古備前派」と称する刀工の技法を受け継ぎ、のちに「長船派」ほか多くの流派が誕生しました。

この流派のなかでも、切先(きっさき)部分に焼き刃を入れる「帽子(ぼうし)」と呼ばれる技術に優れた三氏を「三足帽子」といいます。帽子は刀の切れ味を決定する大事な技術です。

帽子技術に優れた名工三氏は「長光(ながみつ)」、「真長(さねなが)」、「景光(かげみつ)」の3人で、同時に「長船三作」とも呼ばれます。

備前長船の歴史

こちらでは備前長船がなぜ一流の刀ブランドとして人気を博したのか、その理由について歴史とともに紐解いていきます。

  • 質実剛健な刀が鎌倉武士に人気
  • 「応永備前」が明貿易の主力商品に
  • 「未備前」が戦国時代に活躍

質実剛健な刀が鎌倉武士に人気

備前国は「赤目砂鉄」と呼ばれる鉄資源に恵まれ、岡山県瀬戸内市を拠点にする備前長船は、平安時代中期にはじまる古備前鍛冶を起源に発展してきました。

1274年に起きた「文永の役」では、2代目惣領の長光による質実剛健な刀が鎌倉武士の間で人気を呼びます。

その後3代目惣領の景光による「片互の目乱れ焼(かたぐのめみだれやき)」が一大旋風を巻き起こし話題になりました。

さらに4代目惣領の「兼光(かねみつ)」の「相州伝(そうしゅうでん)」などの鍛刀法が流行し、備前長船は時流とともに繁栄していったのです。

応永備前」が明貿易の主力商品に

「応永備前(おうえいびぜん)」とは、1401年の日明貿易の際に、輸出用の備前長船につけられた名称です。応永年間に作られたことから、室町時代の3代将軍「足利義満」によって命名されました。

日本で前例のなかった日本刀の大量生産を成功させた備前長船は、応永備前を明国(中国)との日明貿易の主力商品にします。

応永備前は、古備前や長船初期の名工の技術を手本にしながら生産された万人向けの作柄で、大量生産ゆえその品質は決して高いとはいえません。

しかしながら明では応永備前を日本の約10倍の価格で売ることに成功し、これによって当時幕府は大きな外貨を得ていたと伝えられています。

末備前」が戦国時代に活躍

刀の需要が急増した戦国時代、備前長船は需要に応えるかのように組織的な大量生産をおこなうようになります。これをおこなったのが「未備前(すえびぜん)」と呼ばれる刀工たちです。

この分業により組織的な生産力で、備前長船は質・量あわせて日本一の刀一代流派として知られるようになりました。制作本数の多い末備前時代の日本刀は、状態の良いものが比較的多く残っています。

また「数打ち物」と呼ばれる品質の低い刀が生産されたのもこの時代です。最終的に、備前長船は天正18年(1590年)8月の災害で大打撃を受けることとなり、その後衰退してしまいました。

愛用していた主な歴史上の人物

華やかな作風に特徴がある備前長船は、多くの歴史上の人物に愛用され、引き継がれてきました。その主な歴史上の人物には、時代を代表する以下のようなビッグネームが名を連ねています。

  • 上杉謙信
  • 織田信長
  • 豊臣秀吉
  • 佐々木小次郎

上杉謙信

戦国時代の大名であった上杉謙信の愛刀は「山鳥毛一文字(やまとりげいちもんじ・さんちょうもういちもんじ)」と伝えられています。

山鳥毛一文字は当時、備前長船兼光作による日本刀といわれていました。刀身に見られる波模様が山鳥の毛(羽根)が逆立ったかのように見えることに由来し、この名称がつけられています。

この山鳥毛一文字に見られる特徴として、刃先だけでなく「皆焼(ひたつら)」と呼ばれる地鉄部分全体に焼き入れが入っている点が挙げられます。

織田信長

刀好きとして知られた織田信長は、備前長船の名工「光忠(みつただ)」の刀が特にお気に入りでした。

光忠作の刀のなかでも切れ味のよさで抜きんでていた「実休光忠」を始め、幅広い作風を持つ光忠の刀は30振り近く集めていたといいます。

信長のもとには戦利品から献上品まで、多くの名刀が集まってきたと伝えられています。数ある名刀のなかから光忠の備前長船派を気に入っていた理由は、華やかで豪快な光忠の作風が、信長の好みにピッタリ合ったからなのでしょう。

豊臣秀吉

豊臣秀吉が愛蔵していた短刀「備前長船(おさふね)住長義」は、親交のあった初代加賀藩主・前田利家に贈られています。

「長義(ちょうぎ・ながよし)」は備前長船の刀工のひとりで、その作風は刃文の「沸(にえ)」が強いという特徴があります。沸または「地沸(じにえ)」とは、焼き入れの際に急速な冷却作業で鋼の成分が変化してできる白い粒子でできた模様のことです。

また日本刀伝法地域を表す「五箇伝」(ごかでん)に数えられる「備前伝」と、師である正宗が確立した相州鎌倉の「相州伝」を加味した「相州備前」の特徴も見られます。

佐々木小次郎

佐々木小次郎が使っていたのは、別名「物干し竿」とも呼ばれる「備前長船長光(びぜんおさふねながみつ)」でした。

物干し竿という別名が付いた理由は、この備前長船長光が約1メートルもの長い刀だったと記録されているからです。当時は、将軍・徳川家康が刀の長さを2尺8寸(約87.5cm)以内に収めるよう定めていた時代。1メートルに及ぶ刀は、とても珍しいものでした。

備前長船長光は現存するものもいくつかあり、いずれも美術館や博物館で、国宝または重要文化財として収蔵されています。

備前長船の代表的な名工と名刀

備前長船または長船派の代表的な名工や、彼らの制作した名刀の特徴についてこちらで紹介します。

現存する名刀の約7割を占め、名刀の代名詞ともいわれる「長船物(おさふねもの)」を制作した名工には、以下の4氏がいます。

  • 光忠
  • 長光
  • 景光
  • 兼光

光忠

長船派の実質的な祖でもある「光忠(みつただ)」は、実戦で戦え、かつ華やかで芸術性もある武士にふさわしい日本刀を生み出しています。

その作風は、古備前派に多い小沸(こにえ)の伝法を使った小乱れの刃文から、豪快な乱れ刃まで多岐にわたります。

なかでも光忠が手がけた「生駒光忠」は、豊臣秀吉に仕えていた讃岐の領主・生駒讃岐守親正または生駒親正(いこま ちかまさ)が所持していたことで知られる名刀です。

こちらの刀は金象嵌銘光忠 光徳花押(きんぞうがんめいみつただ みつのりかおう)とも呼ばれ、国宝に指定されています。

長光

2代目惣領の長光は光忠の子で、備前長船を大規模な工房へと発展させた人物です。真長や景光とともに、高度な技術を要する帽子技術に優れた長船三作のひとりに数えられています。

国宝となっている「大般若長光(だいはんにゃながみつ)」は、大般若経(だいはんにゃきょう)の巻数と同様の600貫という値段がついたことから、この名がつけられました。
 
600貫は、現在の通貨に換算して約720万円相当に値します。優美で上品とたとえられる「長光姿」と呼ばれる作風を持ち、長光銘の刀は縁起が良いとして江戸時代の人々にも好まれました。

景光

3代目の景光は、父である長光と同様、作刀の帽子技術の優れた長船三作のひとりです。父親の伝法を忠実に引き継ぎながらも、時代に沿った刃文を生み出し、長船派の発展に貢献しました。

鎌倉時代末期の名工・景光が1306年から1334年にかけて手がけた太刀や短刀は、国宝などで現存しています。

初期の作品でもある太刀は「備州長船住景光(びしゅうおさふねじゅうかげみつ)」と刻まれており、景光が始めた「片落ち互の目」(かたおちぐのめ)の刃文が見て取れます。

兼光

景光の子である兼光(かねみつ)または備前長船兼光は、備前長船派の刀工で「長船四天王」とも呼ばれる卓越した技術を持つ名工です。

兼光は景光の子で「孫左衛門」の通称を持つ初代と、2代目が存在します。延文年紀銘の兼光は、最上級の日本刀に分類される最上大業物(さいじょうおおわざもの)と名高く、重要文化財として重宝されています。

兼光というと、通常は最上大業物14工である2代目の「延文兼光」を指すことが多いようです。

名刀と大量生産された刀の違い

名刀と大量生産品である数打ち物の見分け方としては、刀の作者を明確にするために刀工自身が切る「銘(めい)」を確認するのが一番簡単です。

名刀には刀工の名が俗名(ぞくみょう)、受領銘(ずりょうめい)とともにしっかりと切られています。例えば数打ち物は単に「備州長船祐定」とだけ切られているのに対し、名刀は「備前国住長船与三左衛門尉祐定」とフルネームで入っています。

室町初期の応永備前に俗名入りのものは少ないですが、数打ち物が多く登場した末備前の刀を見分ける際には、この俗名入りかどうかに注意を払うとよいかもしれません。

備前長船の刀を見学できる場所

備前長船の刀を実際に見る方法はあるのでしょうか。こちらでは、岡山県にある備前長船の専用博物館と、備前長船の刀が収められている日本各地の美術館について紹介しますので、見学の際の参考にしてください。

  • 備前長船刀剣博物館
  • 日本各地の美術館

備前長船刀剣博物館

岡山県にある「備前長船刀剣博物館」は、刀の展示以外にも、刀装具、作刀工程や研磨工程に関する資料も見ることができる、日本刀の専門博物館です。

展示室には、約40振りの日本刀が展示されており、月に1度「古式鍛錬」の見学もできます。2020年の秋には、国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」が期間限定で公開され、刀剣乱舞の刀剣男子「山鳥毛」とのコラボも企画されました。

現在は2021年3月末までの間、展示室の改修工事をおこなっていることから、展示室の観覧は中止していますが、実演公開などが予定されています。

来館には事前予約が必要となっていますので、公式サイトの事前予約ページより申込みをおこなってください。

日本各地の美術館

国宝に指定されている111振りの日本刀のうち、約半数の47振りが備前伝の日本刀なのはご存じでしょうか。備前長船の中には、重要文化として認定されている刀もあります。

日本各地の主な博物館や美術館に収蔵されている備前長船は、以下の通りです。

  • 三井記念美術館:太刀 備州長鉛基光(たち めいびしゅうおさふねもとみつ)

出典:文化庁

  • 東京国立博物館:太刀 銘備前国長船住景光(たち びぜんのくにおさふねじゅうかげみつ)

出典:東京国立博物館

  • 徳川美術館:太刀 銘 光忠(たち めい みつただ)

出典:徳川美術館

  • 佐野美術館:刀 金象嵌銘 備前国兼光 本阿弥 花押 (かたな きんぞうがんめい びぜんのくにかねみつ ほんあみ かおう)

出典:佐野美術館

備前長船の刀の購入方法

備前長船の刀は、なんと今でも購入することができます。こちらでは備前長船の入手方法や注意点について触れていきます。

  • 模造刀は通販でも購入可能
  • 真剣は専門店で購入する
  • 「銃砲刀剣類登録証」の申請をおこなう

模造刀は通販でも購入可能

備前長船の模造刀なら、専門店へ行かなくてもamazonや楽天市場などの通販で購入が可能です。模造刀は本物に忠実に作られていますが、真剣ではなく、装飾刀なので切ることはできません。

参考までに、amazonや楽天市場で販売されている備前長船の模造刀の一部とそれぞれの価格は、以下のようになっています。

  • 居合刀 備前長船祐定 装飾刀:65,900円

出典:amazon

  • 備前長船 龍馬もう一つの愛刀(刀袋付き):22,000円

出典:楽天市場

  • 模造刀(美術刀)長船長光:11,000円

出典:>楽天市場

真剣は専門店で購入する

備前長船の真剣を購入するなら、刀剣専門店を選べば間違いありません。店舗によっては刀の正しい扱い方について、また手入れ方法を指導してもらえるのでオススメです。

刀剣専門店の「長船刀剣ギャラリー」では、数万円単位の比較的手頃に入手できる価格帯のものから購入ができます。また、自分だけの真剣を作ることができるオーダーメイドも可能です。

刀鍛冶に直接オーダーすることもできますが、人気のある刀鍛冶に依頼すると、完成が数年先になる場合もあります。

「銃砲刀剣類登録証」の申請をおこなう

真剣を購入し所有する場合、免許は必要ありませんが、お住まいの都道府県での「銃砲刀剣類登録証」の登録が必要となりますのでご注意ください。刀剣専門店で購入すれば、登録証は付属品として付いてきます。

この登録証に書かれている教育委員会へ、刀剣購入後20日以内に所有者変更届を出しましょう。

オーダーメイドで購入する際も、銃砲刀剣類登録証は付いてきますので、ご安心ください。銃砲刀剣類登録証には、長さや種別、反りや銘文など、所有する日本刀についての詳しい情報が記載されています。

備前長船の刀鍛冶が作る包丁もある

備前長船は、刀以外にも刀鍛冶が制作している包丁があります。この包丁は日本刀と同じ備前派の伝法が使用され、すべてが鋼で作られている点が特徴です。

その名も「備前長船包丁」といい、砂鉄で製鉄された「たたら製鉄」を用いた玉鋼を使っています。この玉鋼は、日本古来の手法で職人の手によって丁寧に鍛えあげられたものです。

備前長船の刀鍛冶には、脱サラをしてこの道を選んだという日本刀職人・上田祐定(うえたすけさだ)氏がいます。上田氏の手による料理包丁は100年使える品質を持つとして話題になり、テレビでも取り上げられました。

詳しく知ることで魅力も倍増

備前長船に興味を持ち、詳しく知りたいと思った方に向けて、備前長船の歴史や名工について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

また備前長船を愛用していたという名だたる歴史上の人物にも触れ、その魅力について理解を深めていただけたかもしれません。

また真剣にしても模造刀にしても備前長船の購入方法があること、日本刀は難しくても料理包丁で、その魅力に触れる機会はあります。

この備前長船という日本刀についてもっと知りたい、本物が見てみたいという方は、ぜひ専門博物館や収蔵されている美術館に出かけてみてください。

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