【対談】「世界一即戦力な男」が語る、自分の売りどきと働きっぷりの真実。菊池良×若新雄純

  • 2016年5月23日

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モノに売りどきがあるように、人にも売りどきがある。

今回は学生時代に「世界一即戦力な男」というWebサイトを立ち上げて華麗(?)に就活をスルーしたり、そこから一部上場企業に転職するなど、自分の売りどきを徹底的に活用している男・菊池良と、「NEET株式会社」「ゆるい就活」「鯖江市役所JK課」など、社会をゆるくするため(?)に活動しているコミュニケーションプロデューサーの若新雄純に、“自分の売りどき”について対談してもらった。

が、話は「どうやったらゆるく会社員生活ができるのか」「菊池の働きっぷりは、実際はどうなのか」という方向に脱線していき……。

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人物紹介

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菊池良@kossetsu

会社員。学生時代に「世界一即戦力な男」が話題になり、ドラマ化・書籍化する。そのサイトがきっかけで株式会社LIGに新卒入社。Webメディアで企画・執筆を担当する。2016年4月に一部上場企業に転職。

 

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若新雄純@wakashin

コミュニケーションプロデューサー、慶應義塾大学特任講師。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。専門はコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生がまちづくりを担う「鯖江市役所JK課」など、いろいろな働き方や組織のあり方を模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施中。著書に『創造的脱力』(光文社新書)がある。

 

「いいね!」ボタンのおかげでやってこれた

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若新 転職して「キャリアップ」したの?

菊池 ……しちゃいましたね。いろいろ環境が変わって、ベンチャーじゃなくなったので、「第一部・完」って感じがします。一区切りがついて、第二部が始まったな、と。これからは今までとは違うスタンスに変わっていくんじゃないかと思います。

若新 じゃあ、かっこ良く言えば「キャリアチェンジ」ってやつかな。家族は喜んだ?

菊池 実は言ってないんです。「世界一即戦力な男」のときも特に言わなくて、「内定が出た」とだけ。

若新 この転職タイミングは、菊池くんの社会人としてのウリドキだったのかどうか、ということでインタビューはじめるわけだけども。前の会社はけっこう特殊だったろうけど、いまは大手に転職したよね。

菊池 LIGは業種自体は普通のWeb制作ですよ。社長が趣味でやっていたブログが事業化して、僕はそこのチームにいました。まぁ、かなりゆるい職場でした。

 

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若新 LIGでは大丈夫だったろうけど、今のところではやっていけるのか。そういうところみんな気になってると思う。

仕事って、実は個人に由来する能力の高低ではなく、お客さんや周囲の人との関係づくりや、「信頼されるかどうか」の方が大事なんだと思う。

例えば、「NEET株式会社」の経験から言うと、ニートでもすごい高学歴だったり、資格や能力がある人もいるわけ。でも、だからといって仕事をうまく進められるかっていうと、違う。

そういう意味で、LIGではどういうところが信頼されてたと思う?

菊池 めちゃくちゃわかりやすくて、Facebookのシェア数だったと思います。最初のサイトもけっこうシェアされていて、だから「こいつ、いいんじゃないか」と採用されたと。LIGがメディア事業をやろうってときに呼ばれて、記事を書く人として入社しました。

若新 「いいね!」が保証になってた、と。「挨拶がちゃんとできる」とか、「素直で一生懸命」とかじゃなくて。

菊池 そうです。とてもインターネット的な信頼ですね。これがコミュニケーション能力や、売り上げを達成する能力を求められていたら、終わっていましたね。「いいね!」だけを見られていたので、すごくゆるい感じで働いていました。

 

クリエティブを逆手にとって、居心地を良くする

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若新 菊池くんの記事って途中で家に帰ったり、経費でハワイに行ったり、本当に怒られるんじゃないか、ギリギリのところを狙うものが多かったよね。

だから、「それは演出で、裏ではきちんとした人なんだろう」と深読みしている読者もいると思う。実際はどうなの?

菊池 朝礼があるので朝はちゃんと来ていましたけど、それ以外はハンモックを買って会議室で寝たり、勝手にファミレスに行ったり、けっこう自由でしたよ。

若新 それで「いいね!」が取れる記事が書ければOKってことかな。でも、記事制作って水物なとこあるから、外したりすることもあったんじゃない? そういうときはどうしてたの?

菊池 実はそこが逆に助かる点でもあって、クリエイティブって答えがないものじゃないですか。実際、出すまでバズるかどうかってわからないですし。その辺をうまく利用して、ダメだったらダメだったで「全打席でホームランを打てるわけがない。これがダメだとわかったことも成果だ」って顔をしていましたね。

若新 なるほどね。一応、期待に応えようっていう意志はあったの?

菊池 60%ぐらいは……。それを下回ると周囲と気まずくなるな、って(笑)。快適なオフィス環境じゃなくなると思うので、それぐらいは応えようと思っていました。

 

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若新 まぁ、社会人が仕事にコミットするのって、実は「60%くらい」がちょうどなんだと思う。現代の「仕事」って、人工的なものも多いし、勤務時間の全てを全力でやりすぎると心身を壊したりするからね。実際、どんなに働いて成果を出している人も、上手に手を抜いたりしてる。

菊池 クリエイティブのすごいところって、例えば営業ならテクニックを習得して“超えなきゃいけないライン”があると思うんです。テレアポをどれぐらいするかとか。でも、クリエイティブにはそれがない。どこまでいっても「やってみないとわからない」で押し通せる。それがあるので、だいぶ助かっています。

若新 結果が出なくても、「クリエイティブは魔物で、傾向まではわかっても結果はわからない」ってことで周囲を納得させるんだね。まぁ、人間のする仕事の全てが、そもそも「結果が分からない」というような性質のものなんじゃないかと思う。常に、一定ではない、というか。

菊池 あと新しいものに取り組めば「これは挑戦だ」と言って、そこまで数字責任を負わされないのも良いところですね。普通は新規事業でも、売り上げが見込めなければ撤退、ってあるわけじゃないですか。

若新 実際、新しいものにはどれぐらい取り組んでいたの?

菊池 全体の10%ぐらいですかね……。それぐらいが言い訳の効く挑戦具合です。あんまり挑戦ばっかりしすぎると、本当の意味での「挑戦者」になっちゃいます。それは別の期待がかかってくるので、つらい。

若新 あくまで「居心地の良さ」を維持するための挑戦なんだね。よく言えば、組織人としての「チューニング」に長けてる気がする。

 

周囲に期待させない環境を作っていく

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若新 そういう考えって就職前から持っていたの?

菊池 就職してからですね。「世界一即戦力な男」のときは「いかに就活をしないで内定を取るか」しか考えていませんでした。

若新 6割はコミットする、っていうのは絶妙かもしれない。ストレスを感じずに働けるラインとしてね。戦後の貧しい時代や高度成長期に比べて、「お給料」の価値は相対的に下がっていると思うし、人生にとっての仕事の意味合いは変わってきていると思う。うまいことチューニングして働いてくれれば、会社にとってもうつ病になる心配もないし、体力的・精神的なケアにコストをかける必要もなくなる。普通の人間は10割コミットするって無理だよ。それができるのってイチローとか?ぐらい。でも、みんな表向き「10割りコミット」を求めるから今の社会が息苦しくなっているんじゃないかな。

ちなみに残りの4割は何をしていたの?

菊池 2割はYouTube、1割はネットサーフィン、もう1割は漫画です。ただ、これまたクリエイティブの良いところとして、こういう側面も肯定できるロジックがあるんですよ。「クリエイティブにはインプットも必要」って。

若新 正直だね(笑)。それで通るように環境を整えたってことだよね。

ある人事担当の人と話したときに、最近の若手に多い傾向として、平均点以上の結果を目指さないっていうのがあるんだって。100点を取っても給料が爆発的に増えるわけじゃないし、だったら、「怒られない程度」の成果を出して、それ以上は頑張らないという。

そういう点で言うと、菊池くんはとても現代的かもしれないね。

菊池 そうですね。怒られたくないっていうのはあります。頑張りたくもないけど、とにかく怒られたくない。

そういう意味では典型的な現代の若者ですね。実際は29で若者じゃないんですけど、6年ひきこもってたので、若いんだと思います。

 

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若新 転職してどう? 60点は出せてる?

菊池 うーん、今は「ならし」の期間ですね。

若新 NEET株式会社で、「レンタルニート」っていうサービスをつくった子がいて、「仕事は無理だけど、一緒に遊ぶことぐらいはできる」っていう活動をしていた。

その子は、仕事の依頼者へのメールを適当に返すようにしているんだって。「ちゃんと返信するとまともなサービスを期待される」から。実際、その方法を取ることで、「時間通りに行く」だけで「すごい!」「思ったよりは良かった!」って満足されるそうだよ。

その子はニートなりに「期待値を下げる」ってテクニックを使っていたんだけど、菊池くんも近いかもしれない。

菊池 そうですね。でも、僕はクビにはなりたくない。安定したいっていう気持ちもあります(笑)。

若新 ずっと会社員でいたいの?

菊池 引きこもりに戻りたいなって思うときもありますよ(笑)。引きこもりってストレスもないし、ずっとやりたいことができる。パラダイスでした。時間が足りなかったですもん。見たいWebサイトがありすぎて。

だから、どこかで一発あててまた引きこもりたいなって思うことはあります。村上春樹的な成功をして。

ちょっと楽な方に行っちゃったかな、とも思っていて。大学に行ったり、就職したりした方が、世間の見え方的に「楽」ですよね。でも、そこで抵抗して、何としてでも引きこもりを維持する方向に努力すべきだったかもな、って思うんですよ(笑)。

『ニートの歩き方』って本を出しているphaさんのブログや、2chに出てくるナチュラルに「働いたら負け」って言っているようなエリートニートの書き込みを見かけると、彼らと思考は同じなのに、自分は安易な方向に行っちゃったのかもな、と悩むときがあります(笑)。

若新 今の言葉を聞いて、よくわかったよ。菊池くんには、「ニート現象」のすべてが凝縮されてる。

 

菊池はニート現象の最高のモデルケースだった!?

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若新 菊池くんが大学に入った、就職した、ってことで一人前の人間になったんだ、って世間の人は見ると思うんだよね。そういう分かりやすい物語を世の中は求めているんだと思う。半人前が一人前になれましたよ、っていう。そうだと思いたい。

実は「NEET株式会社」を立ち上げたときもそうだった。ニートを社会復帰させる装置として「NEET株式会社」があると思われがちなんだけど、実は僕のの意図としてはニートを世の中が期待しているような「社会復帰」させることが目的ではないし、説明会でも言っていない。

菊池 僕もそう思っていましたよ。リーダーが上手く事業を立ち上げて、一気にニートを社会復帰させるプロジェクトなのかな、って。

若新 そうじゃなくて、ニートが半人前のままでも社会にいられるように、とNEET株式会社を作ったんだよね。

世間の人はニートが一人前になれないから苦しんでいると思っていて、それを会社員にして一人前にしてあげるのが正しい行いだと考えている。現に「ニート支援」なる政策ってそんな感じになっているよね。

それは大きな間違いで、ニートの中にはは「できれば永遠にニートでいたい」と思っているやつがけっこういる。だから、ニート支援っていうのは上手くいかないんだと思うんだよね

そういうニートの真意と向き合わないと、根本的な解決なんて無理なんだと思おう。

 

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菊池 それはそうですね。その通りだと思います。

若新 でも、菊池くんは人間としての根本を変えないまま、大手に就職するところまで持っていった。ある意味、最高に時代の環境に適応しているよね。

ニートの中には、「ずっとこの環境が続けばいいのに」と願ってるやつがいる。とはいえ、親もいつか死ぬわけで永遠は難しいと思ってる。そういう中で、いかに「新しいタイプの人間」として社会に出るか。

菊池くんは運も良くて、働き方に言い訳や工夫の余地をつくれるインターネットの世界に出会った。そして、その中ですごく上手くチューニングをして、「6割はやる」という線引きをつくっていった。

菊池 そうかもしれませんね。

若新 この菊池くんの話やモデルケースを、「何か別の意図や裏があるのでは……?」などと勘ぐるのではなくて、正面から受け止めることが大切なんだと思う。

 

まとめ

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菊池良のキャリアの話から、なぜか話しは「60%くらいの頑張りをうまく維持できる方が社会でうまくやれる」「菊池は典型的なニート気質で、すごく上手に環境に適応していった」という結論へ。

あんまり頑張らない方が、人間のウリドキもやってくる!?

木暮康雄

木暮康雄 (監修者)

ウリドキ株式会社代表取締役CEO。ウリドキプラスの発行人でもある。
リユース業界での起業・事業運営の経験が豊富でリユースの専門家としてのメディア出演歴も多数。
著書に「リユース革命」(幻冬舎)がある。

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